DECAGON



 キフィとは、クレオパトラが愛用した練香のようなもので、専門家ではない私の個人的考えでは、バラやヘンナ(シコウカ)の花びらを漬け込んだワインを蒸留して得た花精油で、イリス(匂花菖浦)の根を乾燥した物、没薬(注1)、肉桂の樹皮の 乾燥した物を溶き、これにエレミ(注2)、マスチック(注3)、蜂蜜、プロポリス等で練った物であったと思われる。

また、この原点は黒鉛、硫化アンチモン等を練り込んだ、アラブの女性が使うKOHL(コール:アイシャドウーのような物で薬用であった)ではないかと思われる。
そして、このアラビア語のKOHL(KUHUL)を煉るための、酒を精留した液体としてアルコール(注4)と言う言葉が各国語に生きていると思われる。



-注1-
もつやく: カンラン科ミルラノキ属【ミイラの原意】の木で樹皮から芳香性のある樹脂がとれる。ミイラを作る時の防腐剤でもある


-注2-
エレミ: これもカンラン科の木からとれる軟質樹脂-絵画や弦楽器の二スにも使用


-注3-
マスチック(乳香):これもカンラン科の木からとれる樹脂-絵画や弦楽器の二スにも使用


-注4-
アルコールのアル(AL)はアラビア語の定冠詞 
コールのアルファベット表記はアラビア語を表音した為に各国語で、cohol GB、kohola SLO、kohol DE CZ、cool FR IT RO 等がある

 また、水溶液が塩基性の性質を示す総称として使われているアルカリはアル(定冠詞)+カリ(灰)である。即ち、灰を解いた水溶液の示す性質である。






 弦楽器製作者も愛用する、このアルコールに関して、どこで、いつ頃から作られたのか、またなぜ定冠詞AL+KOHLと言う呼び名が付いているのか、非常に興味深い。

アルコールの語源に関してアラビア語のAL+GAHWL(精霊 SPIRT)から来ていると言う説や、硫化アンチモン(KOHL)の精錬法が蒸留法と結びつき蒸留による液体をアルコールと言うようになった等の諸説がある。

だがこれらの諸説から見ると異論であり私見ではあるが、、、。
このアルコールを理解する為には香に関して考察する必要があると思われる。
アラブの国々や古代エジプトでは、五千年以上前から、宗教儀式などにおいて殺菌効果もある白檀、桂皮、没薬、イリス等の香木や樹脂を焚いていたと思われる。
これは、香と言う意味のヨーロッパ言語の多くが、ラテン語のPER(英語のper、thoroughly、イタリア語のpro)+FUMES(英語のsmoke、イタリア語のfumo 煙)から来ていると言う事からも解る。

そして、この香を焚く方法に対して、紀元前8世紀には柑橘系の果皮を圧搾して精油を取ったり、紀元前3世紀には花を浸した水やワインから花精油を取る方法として、日本では欄引(ランビキ)と言われるアランビック蒸留法が、化学の基礎を作ったアレクサンドリアや古代エジプトの錬金術師により確立したと思われる。

蒸留法を知った錬金術師たちは、ワイン等の酒を精留する事で、非常に溶解力の強い液体を知る事になる。
この液体は、樹脂を良く溶かし、取り分け黒鉛、硫化アンチモン等の水に混ぜ難い微粉末に良く浸透して煉るのに好都合であり、また強い揮発性がある為に、べとつかずに直に固着する。  この為に、KOHLを煉るこの液体に、アル+コールと言う名が付いたと思われる。

そして、このアルコールと言う高価な液体は、中世初期にヨーロッパに入り密封容器の発達と共に14世紀のペストの大流行で、揮発性の強い殺菌、消毒剤として医療面でも評価され、普及する。  また、この精留法はスペイン、イタリアでACQUA ARDENS、ACQUA VITE等の名を持つ強い蒸留酒を生み出したと思われる。


 現代のクレモナでは、ヴァイオリンに油性ニスを塗る事が流行って来ている。
しかし、16~17世紀のクレモナの弦楽器製作者たちは、殆んどの樹脂を溶かす非常に強い溶解力と、早い揮発性を持ち、水や多くの有機溶剤とも良く混和する不思議な生霊の水、アルコールをヴァイオリンのニスの溶剤として使用した可能性が高いと思っているのであるが、、。

戻る