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  何故、板目に取った板が木表側に反るか?

 板目に取った板が木表側に反ると言う事を、幾つかの弦楽器関係のホームページや本でも話題にしており、木表側に反ると言う結果は感覚的、体験的に解かるので正しいのですが、『板目の収縮方向は年輪に対して直角方向になり、板の収縮率が各部分で異なってくるので、これによって板に反りが生じる』と言う様な全く間違った説明がなされている事が多い様に思われます。
そこで、このソリを少し幾何学的に考えてみます。


 まず、収縮前の木の半径方向(r)、円周方向(t)での収縮率の比を1:2とし、半径10、円周10の扇形の木片で考えてみます。この木片を円周÷半径の関係で角度を示すラジアンと言う単位で表すと、1ラジアン(10/10)で約57.3°(57度17分)となります。BASIC等のコンピューター言語では扇形を表示する時には、このラジアンをよく使います。
(πラジアンは180°であるから3.1416÷180=0.01745  よって1°は、0.01745ラジアン)






 自然界での収縮は、半径方向、円周方向共に同時に起こりますが、ここでは、二段階に考えてみます。複数の現象を、次元ごとに考えることは、自然界の現象を説明する上で、一般的な手法です。

 まず、半径方向の収縮を1として考えてみます。
総ての半径が1減るのであるから形(57.3°)は変わらないまま、半径9、円周9の相似の扇形となります。
即ち、半径方向の収縮は、円周方向の等しい収縮を伴う事になります。

(但し、下図は総ての円周で成長が同じであり、各年輪が平行であると言うのが前提である。自然界の丸太は、切り株の年輪の粗密から方位が解かる様に、同じ年輪でも生育地の南面と北面で幅に違いがあり、完全な相似の扇形になる訳ではない)






この扇形の木片の中に板目材を取ったと考えて、この収縮を考えてみます。
この板の上の両端と中心部にa、b、c、の三点を取り、高さ(y座標)を求めてみます。


 a、b、c、の三点の高さは、x軸に平行であるからsin 61.35°×10=8.78となります。
 (または、ラジアンで表すとsin((π-1ラジアン)÷2)×10=8.78)

 右の収縮後のb’の高さは、一割の半径の収縮なので 8.78×9/10=7.90となります。
 (y軸上であるから)

 右の収縮後のc’の高さは、一割の半径の収縮なので sin 61.35°×9=7.90となり、b’と等しくなります。

この事は、半径方向の収縮では相似形となり、板にソリがでない事を意味します。


-参考までに、この板の幅ac、a’c’を求めてみます-
 ac=sin(57.3°÷2)×10×2=9.59 または、 ac=cos 61.35°×10×2=9.59
 (ラジアンで表すとsin(1/2ラジアン)×10×2=9.59)

 a’c’=sin(57.3°÷2)×9×2=8.63 または、 a’c’=cos 61.35°×9×2=8.63
 (ラジアンで表すとsin(1/2ラジアン)×9×2=8.63)



 次に、半径方向に収縮した後の扇形を使って、円周方向の収縮を考えてみます。
半径方向、円周方向の収縮率の比が1:2で、半径方向の収縮を1としたのであるから、円周方向の収縮は2で、半径方向の収縮後の値である円周9から1を引いた、半径9、円周8の扇形となります(赤)。
即ち、8/9ラジアンで約51°の扇形となります。(8/9÷0.01745=50.939)




ここで、c’、c''の高さ(y座標)を求めてみます。

 c’は、先に求めた7.90であり、c’’は、sin 64.5°×9=8.12となります。
 (または、ラジアンで表すとsin((π-8/9ラジアン)÷2)×9=8.12)

 y軸上のb’、b’’は、円周方向の収縮の為に同位置となります。

これにより、c’’は、c’より 円周上を中心(y軸)に近づ事で 8.12-7.90=0.22 高くなり、これが、ソリとなります。


即ち、円周方向の収縮が、半径方向の収縮より大きいと言う事がソリを生みます。



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