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手作りの証


副題「ヴァイオリン製作者の遊びとして銀製レターオープナー(封筒用ペーパーナイフ)を作る」




 ヴァイオリンを選ぶ時
AMATI や STRADに肩を並べることが出来る楽器の必要条件 
 でも述べたが、クレモナのかなりの製作者は、何の意識もなく、半完成品を使っている。
材料店でも、下の写真のような半完成品を大々的に販売している。



S.V.S TONEWOODS のカタログより



一部の人は、アマチュアの製作者がこれら半完成品を使うのだと思っているが、アマチュアこそ作る事に楽しみがあるのだから、あまり使わない。
プロの製作者が、手間を省いて増収の為に半完成品を使い、楽器商もこれらを使っている事に気付いていても、製作者の言葉を信じて増益の為に買っていく。

私は、半完成品を使っている事自体悪いと思わない、何故ならば、日本の伝統工芸は非常に分業化が進んでいて、一職人が、木地作りから製作、ニス作りや塗り、そして、仕上げ、調整までする事は、殆どない。

例えば、沈金が施された輪島塗の椀を考えてみると、まず木割師、木割師は輪切りにしたケヤキを木理を見ながら所定の大きさに鉈で割り、チョンノと言う手釿(てちょうな=鍬型の手斧)で荒く中をえぐる。
次に木地師、木地師は木割師の荒い形からロクロで椀にする。
そして塗師、塗師は地の粉職人によって作られた地の粉で下地を施し、漆の木から掻き職人と精製職人の手を経た漆により塗り上げ、最後に沈金職人が椀を飾る。

このような高度な分業化と専門化が、究極の日本の品質と美しさの技巧を生み出している。
だから、半完成品を使う事を、分業化と考えれば良いかもしれない。

ただ、職人が「半完成品など使っていません、完全な手作りです」と偽っている所に問題がある。

また、ヴァイオリン製作は、分業化による高度な技巧の進歩に反し、ニス作りを含め全工程を、一職人がすると言う事である。
良く言えば、個性だが品質のばらつきでもある。
そして、これがヴァイオリン製作の面白さと素晴らしさ、そして秘技を作り出していると思う。

全工程に一職人の総てが生きているのである。





 私は、若い頃、ラブレス(ROVERTO W. LOVELESS)に憧れて少しナイフ作りをした事があるので、手作りの証として、注文製作の楽器に、裏板の中央C部の切り端の木でペーパーナイフの柄を作り、購入者プレゼントしている。
ヴァイオリンの裏板と共板の虎目を持つ柄は、ヴァイオリン製作者も楽しめる。





ただ、この記述によって、材料店が半完成品にも裏板の切り端を本体に付けて売るようになると、「手作りの証」も欺く為の手段になってしまうが、、。

材料店が、切り端を本体に付けて売るような事にならないように祈ろう。




銀製レターオープナーを作る





1.5mm厚の925/1000銀板を彫金用の糸鋸で切る






左は彫金用の糸鋸刃、切りくずを最小限にする為に、刃厚0.25mm以下を使う。
メーカーとしては、HERCULES、TIGER ORO、IRIS等がある。
右の2本は、木工、プラスチック用の荒引き糸鋸刃、早く繊維質を切るのに適しているが、ロスが沢山出るので使わない。
メーカーとしては、BLITZ、SANDVIK、JH等がある。
また、糸鋸刃は、巾と厚みにより7/0,6/0,5/0,4/0,3/0,2/0,0,1,2,3,4,5,6,7,9,12 等の番手がある。ちなみに、1番は、0.65mm×0.3mmである。 私は、f孔を切り抜くのに写真右の3番0.8mm×0.34mmの荒引きを使う。

刃物としては、銀では柔らか過ぎるがレターオープナーなので豪華さも兼ねてあえて925/1000銀板を使う。
切りくずは、 『ヴァイオリン作りの独り言-10鋸クズも銀』  でも書いたように下に紙などを敷いて集める。






荒く刃を付ける







『SILVER』と銀の品位を表わす『925』の刻印をする。






エッチングで名前と、図案化したヴァイオリンを入れる。





柄を貼り付けて形成する。




カシメピンと紐通しパイプの穴を開ける。







今回は、カシメピンを入れた後にするので入れ辛いが、弓用の貝をいれてみた。







くるみオイルで仕上げをする。(リンシードオイルでも良いが、私は乾燥の遅いくるみオイルが好きである)





ヴァイオリンの胴板をコルクで挟んで鞘を作る。







ヴィオラ 2018年





ヴィオラ 2018年





遊びとして尾止め板に螺鈿をしてみた。





今回、銀製のレター オープナーの裏板のC部で作った柄には、金の梨子地に薄貝の梅を入れてみた。






金の梨子地に薄貝の梅










ヴァイオリン 2019年









ヴァイオリン 2019年









銀製のレター オープナーの裏板のC部で作った柄には、金の梨子地に薄貝の梅を入れてみた。










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ヴァイオリン作りの独り言

ヴァイオリンを選ぶ時

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅰ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅱ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅲ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅳ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅴ




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