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ストラデヴァリの内枠に見る絡繰 Ⅴ



ヴァイオリン作りの独り言の55番 「内枠で作る意味」の少し詳細な解説です。

副題 "ストラデヴァリの横板に見る虎杢の方向"

タイトルから少し外れるのですが、"ストラデヴァリの内枠に見る絡繰 Ⅰ"で書いた上部のブロック材の木取(年輪)についての説明になるのでここで取り上げます。



現代の柾目の木取



ストラデヴァリの板目での木取(但し材は柳であるが)







 ある著名な製作者のホームページで、ストラデヴァリが横板の虎杢の方向について意識的に操作していたかどうかを考察する記事があったので見ると、 
(一部引用させていただきます)

"非常に几帳面なストラディヴァリが、横板の虎杢の向きに関しては統一性がなかったというのは、私にとっては意外な事実でした。
 またこれまでに調べた範囲内での結論になりますが、ストラディヴァリはツァルゲン(横板)の虎杢の向きを左右対称にはしていないようです。すなわち、左側面のツァルゲンの虎杢の向きが左上がりの場合、右側では左上がりになるわけです"
 と述べてあった。


私は、ストラデヴァリの絶対的信奉者ではないが、これでは、ストラデヴァリが何の意識も無く製作していた様で、あまりにもかわいそうだ。

しかし、一枚板の裏板だけでなく二枚板の裏板でも、ストラディヴァリが横板の虎杢の向きを左右対称にしなかった理由を理解している製作者は、非常に少ないから仕方がないかもしれない。(理由どころか左右対称にしていない事すらも知らないのが現状である)
ほとんどの製作の本や、現代の指導者的ヴァイオリン製作マイスターやマエストロは、二枚板の裏板の場合、『左右対称に取らなくてはいけない』と教えている。
クレモナの最も著名なマエストロにストラデヴァリの横板の虎杢の左右の非対称や不揃いを訊いたら、美的センスが無かったと言う一言で終わった事がある。

"ヴァイオリン作りの独り言"の50番 「ストラデヴァリの怒りに触れるのか」 でも書いたように、楽器をコピーする事が中心線至上主義をもたらし、線対称になっている事が最も大切であると言う事になってしまった。


 そこで、左右対称を重んじる様になった現代の横板の虎杢の取り方を見てみよう。



二枚板の裏板で、裏板の虎杢を肩下がりで取った時は、ハの字の虎杢に合わせて、左右の横板の虎杢も同じ延長方向に取り、横板の虎杢の向きを左右対称にする
(また裏板の虎杢をV字形に取った時は、横板の虎杢も反対になる)



ネックの付根をはさんで、横板の虎杢が左右線対称となる





 しかし、ストラデヴァリ、いやアマティ、グァルネリ、総てのクレモナ黄金期の巨匠の楽器は、かの製作者のホームページにもある様に横板の虎杢の向きを左右対称にはしていない。



二枚板の裏板の場合でも、片側の横板の虎杢は裏板の虎杢の延長方向とはならず、反対の方向となる
即ち、左側、右側共に右上がり、または左上がりで、非対称となる



ネックの付根の左右では、横板の虎杢が連続した同じ方向となる




 では、何故、300年以上前の巨匠たちは、現代の常識から考えると、間違えとも思えるような、横板の虎杢の取り方をしたのか?!




これは、上部の左右の横板を、一枚の横板で作る必要があったからである。



 現代の製作法では、ネックを本体に附けるのに、ホゾを切って差し入れる。この為、極端に言うと、ホゾを切る部分の横板は、はじめから20mm無くてもなんとかなる。


ホゾを切るので、横板が連続していなくても良い





 ストラデヴァリの時代のバロックヴァイオリンは、ネックを釘で打ちつけた。

拙著“ヴァイオリンのF孔”の導入部を読む


釘を打ってネックを固定したバロックヴァイオリン




釘で打ち附ける為に、左右で接いだ横板では、強度がでない。
一枚の横板で作ることでブロック材の強度を上げている。




釘を打ってネックを固定したバロックヴァイオリン
左右の横板を一枚の板から作る事で、釘の打ち付けによるブロック材の割れを防ぐ
もしも、横板が切れていると釘でブロック材が割れやすい





これが、ストラデヴァリの楽器は、横板の虎杢を現代の様に左右対称に取ったものがない理由である。









 ここで、最初のテーマである、"上部のブロック材の木取(年輪)について"に戻ろう。


 大工仕事を少しした事のある人ならすぐ解かると思うが、柾目に取った材は、圏割れと言って、年輪に沿って割れやすい。まして、下穴をあけても、柾目の小片のブロック材では、釘を打つと非常に割れやすい。
バロックヴァイオリンは、板目で取る事で、釘を打っても割れ難くしてある、しかも、木表を横板に貼ることで干割れが入らない。
また、ストラデヴァリがブロック材に年輪が堅くて圏割れし易い針葉樹のスプルース(樅の木の1種であり表板と同材)ではなく、均一且つ、柔らかで割れにくい柳を愛用したのも、釘を打つ事が一つの理由でもある。


 では、何故、現代ヴァイオリンは柾目で取る様になったのか?

 現代ヴァイオリンは釘を打つ事がないので割れは考えなくてもよくなった反面、ホゾを切る事で、バロックヴァイオリンでは堅さのある楓の横板が基礎となって支えたネックにかかる弦の張力をブロック材のみで支えなくてはならなくなった。
板目で取ったスプルースのブロック材は、年輪と年輪との間(特に春材と言って年輪のすぐ外側の成長が活発になる春に形成された粗い部分)で押される力に弱く、ネックの下がりにつながる。



春材は成長が良い為に組織が粗くなる。





 柾目で取ったスプルースのブロック材は、年輪が杭基礎となって、押される力に強く、ネックが下がり難いと言う利点と接着面の平面の安定性がある。




柾目で木取ると接着面にソリが出難いと共に、硬い年輪が杭のような基礎となって、ネックを支える









―追記―

 上部の左右の横板を、一枚の横板(ネックの左右で、虎杢が同方向)で作ってあると言う事は、ストラデヴァリの時代の楽器鑑定で、非常に役に立つ。
何故ならば、現代のように虎杢の向きを左右対称にしてある事は、99%ない。一枚の横板で作らなくてはならないと言う必然性があったからだ。
(横板の虎杢の向きを左右対称にしたアマティ、ストラデヴァリは、ありえないと言う事である)

 私は、ストラデヴァリの時代のオールドコピーヴァイオリンを作るならば、バロックヴァイオリンを作ってから、現代ヴァイオリンに作り変える事を薦めている。本当のオールドコピーヴァイオリンは、この方法で作らないと生まれない。

 コンクールで、ストラデヴァリと同じように二枚板の裏板でも横板の虎杢の向きを左右非対称にすると、ほとんどの審査員は、何も解からないまま失敗作と言う点数を附ける。これが、本当の楽器が解かれば解かるほど、コンクールの成績が悪くなった、私の理由かもしれない?。(言訳!)








 

 ストラデヴァリの一枚板の裏板での、横板の虎杢の取り方、及び装飾ヴァイオリンにおける横板の虎杢の不揃いについては、次回に、、、



一枚板の裏板の場合は、バロックヴァイオリンも現代ヴァイオリンも、裏板の方向に合わせるので横板の虎杢が左右非対称となる




 また、1980年にクレモナのストラデヴァリ博物館で、最初にストラドの内枠のコーナーブロックを接着する切り欠き部が直角になっていないのを見た時、それまで直角を重んじて製作して来た私にとって、大きな衝撃を覚えた事を思い出す。



現代の製作者は内枠のコーナーブロックを着ける切り欠き部を神経質なほど直角に拘るが、
ストラデヴァリは鈍角に取っている   ストラデヴァリの内枠G




 この点もストラデヴァリのブロック材に関しての大きな絡繰なので次回に、、、









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ストラデヴァリの内枠に見る絡繰Ⅰ

ストラデヴァリの内枠に見る絡繰Ⅱ

ストラデヴァリの内枠に見る絡繰Ⅲ

ストラデヴァリの内枠に見る絡繰Ⅳ

ストラデヴァリのギターにも正十角形は生きる



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