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ストラディヴァリの内枠に見る絡繰 Ⅲ



これもヴァイオリン作りの独り言の55番 「内枠で作る意味」の少し詳細な解説です。 



 -「現代はクランプの性能が高まったが、以前(17,18世紀)は今のような精度の高いクランプがなかった」と言う意見を聞いた事があるが、本当であろうか?
イタリアのクレモナから50km位離れた町ブレシャーには、武器博物館があり中世からの素晴らしい精度の甲冑がある。
これらの金工の職人技は、現代の工場生産に優れる事はあっても、決して劣ってはいない。- 



ストラディヴァリの内枠には、55番 「内枠で作る意味」で見るようにブロック材や横板を万力(クランプ)で固定して接着するための切り込みがない。ただ鉛筆が通る位の穴が開いているだけである。

 また面白い事に、この小さな穴は、コーナーブロック材や上と下の横板を貼る為の穴以外に中央C部の横板をコーナーブロック材に附ける為に上下にもある。即ち一つコーナーブロック部に上下二つの穴がある。


中央C部の横板をコーナーブロック材に附ける為にある穴と、棒と紐による中央C部の横板の固定法





 現代の内枠では、中央C部の横板をコーナーブロック材に貼り附ける時は、一般の大きさのクランプは入らないので、横板に表板や裏板を貼るときに使うクランプをコーナーブロック材にかけるか、または台形の押し板(梯形当て木)で圧力を加えて行っている。




横板に表板や裏板を貼るときに使うクランプを使用してのコーナーブロック材への接着
ある著名なクレモナの製作者のページより

ブロック材の木取り(年輪の取り方)を間違えている
こんな基本的な事を教諭が教えていない、また学んでいないままインターネット上に公開してしまう事の怖さであり、
クレモナのヴァイオリン製作の基本的なレベルの低さでもあると思う



梯形当て木で圧力を加えて中央C部の横板をコーナーブロック材に附ける接着法

注 コーナーブロック材の年輪は剣先に向かなくてはいけない









上記の現代の内枠では、上と下の横板は万力を使う事で非常に強く押さえて接着する
(写真はコーナーブロック材を附けている)








 では何故、ストラディヴァリは中央C部の横板の貼り付けに棒と紐による方法、そして上下の横板の貼り付けにも万力を使わず棒と紐による同一の方法を取ったのか?



 一般に、接着剤は、接着する二物を加圧する事で、接着の強度や状態が変わる、特に常温でゲル化(ゼリー状)する膠のような水分の蒸発により痩せて硬化する物は、適切な押さえる力が必要となる。
木片を薄めの膠をもって非常に強い力で押さえて接着すると、強度は決して高くならない。濃い目の膠をもって弱い力で押さえて接着すると、膠が噛んで乾燥による体積減少で内部に沢山の小さな隙間が出来てしまうのである。つまり膠は乾燥収縮(縮化)しながら硬化するので、空気に触れている部分で接着物を引き寄せながらゾル化(液体)からゲル化、硬化(乾膠)と進み、内部に空隙が出来やすいと言うことである。
 ただし、膠の適度な濃度、分量、加圧下では、楓のような広葉樹や柳などの柔らかい木は、膠の食い込みが良く、乾燥収縮により引っ張られると僅かに膨らむ事で、空隙を作る事無く、より強固で密に接着することが出来る。(即ち、接着性の良い木であると言える。 樹脂気が少ない為に接着性が良いと言う事と共に、ストラディヴァリがブロック材やライニング材に柳を使った理由の一つでもある)  この事が、膠がガラスや金属にはむかないが、木工にむいている大きな理由の一つでもあると思われる。





楓の上に垂らした膠
(楓の面積40×38mm、平面は天地方向でカンナによる、膠の重量比濃度約10%、気温23度C、湿度45度)





6mm厚の有機グラスを乗せる
完全な脱泡が出来ていないので、0.5㎜程度が気泡が数個内在





100gの重りで加圧




12時間後




有機グラスを剥がしてみると、始めに混入した泡の痕の他に、空隙が乾燥の遅かった中心部に僅かに出来ている事がわかる




 ストラディヴァリは、中央C部の横板の接着と、上下の横板の接着に棒と紐と言う同一の方法を使う事により、コーナーブロック材の二箇所の加圧を適切にコントロールでき、同等にし易くなり、硬化後の内在するテンションや、接着後のトラブルが少なくなると考えていたのである。

 現代の製作者はストラディヴァリの表面的な形のコピーはするが、棒と紐による素晴らしい理知を持ったストラディヴァリの接着方法を、貧しい原始的な昔の手法として一瞥も与えないまま置き去りにしている。








  - 接着の話しのついでに、膠についての私見を少し書いてみたい。-

 膠は、動物性の熱により天然の硬蛋白質コラーゲンが分解して出来た誘導蛋白質で、動物の皮、骨、腱、魚の浮き袋等コラーゲンを含む組織を85度C前後(企業では、品質を落としても抽出率を上げるために最終的には90度C前後で加熱していると思われる)の湯で煮沸して、その溶液を濾過、濃縮、冷却凝固、乾燥して作った精製度の低いゼラチンと言える。

 膠と言うと一般人の現代生活から縁遠いように思えるが、精製度の高い同質の物を、食用ゼラチンとしてゼリー、ババロア、マシュマロなどの菓子類や、コールドビーフ、テリーヌなど冷製のオードブル、そして薬用カプセル等によく使っている。
 今流行のとんこつスープや韓国料理のコムタンは、膠の製造と似ていて、食用ゼラチンの多いい膠スープと言えるかも知れない。
製造過程には多少の違いがあるが食用ゼラチンは精製度の高い膠と考えても良いかもしれない。(膠を不純物の多いゼラチンと捉えるべきかも知れないが、、)

 精製度の低いゼラチン即ち膠を接着剤として使用する現代の分野は、絵画や一部の楽器製作に限られてきているが、接着剤としての各国での歴史は古く、私の憶測であるが、中国や古代エジプトでは紀元前2000年以上前から使われていたと思う。
旧約聖書外典・アポクリファのベン=シラの知恵(紀元前200頃?)にglueth 膠と言う言葉が出てくる。
 西欧でも、昔から接着剤としての消費量はかなり高く、中世の修道院においては、主な作業として写本があり、これらの挿絵のために自家製の膠が多く作られたと思われる。そして17世紀には工場制手工業として獣の膠の製造は、カゼイン糊と並んで重要な産業になっていたと思われる。


  ―注― 
 glueth は、ラテン語のglusニカワが語源。 但し私の独断ではglus は盤石糊のようなパスタなどの原料となる小麦粉に含まれるグルテンglutenの接着剤も含まれていたと思われる、またイタリア語では膠を colla a caldo-温めて使う糊- と言い、これはカゼイン糊が加熱なしで使用する事に対しての意味であり、ラテン語のglusは、古語としてglutineグルテンに膠の意味もあり見出せるが、現代のイタリア語には残ってはいない。

但し、現代イタリア語のcollaは主に糊の意味であるが、ギリシア語のKOLLA(膠の事であり、コロイドやコラーゲンの原語)から来ているとするとcollaと言う原意に膠と言う意味があると解釈した方が正しいかもしれない。



 日本画では、膠は顔料や岩絵の具の唯一の接着、展色剤であり、棒状の三千本膠、1センチ角位の鹿膠、粒状の播州膠等を使う。
油絵では、膠は白亜や石膏と混ぜてキャンバスの地塗りに使うが、顔料の接着、展色剤は、マスチック、コパール、ダンマルなどの天然樹脂を、テレピン油や、ぺテロール油などの溶剤に溶かした物と、亜麻仁油、ケシ油等の乾性油を併用して使うので堅牢で、保存性がよい。
日本画の顔料は、膠の薄い皮膜で保護されているだけなので、防湿性や、耐水性に欠ける。
しかし、膠の耐水性に欠ける事は、欠点でもあるが、最も重要な長所でもある。
楽器の修理、修復において、ぬるま湯で接着剤の膠が完全に洗い流せると言うことは、素晴らしい事である。

 この膠は35度C以下の冷水(分散媒)に1日程浸してゼリー状(ゲル)になった物を60度Cから70度C位に加熱して液体(ゾル)で使用する。
 使用目的で煮詰めて濃くしたり、水で薄くしたりする膠の適正濃度は経験により知る事で非常に難しいが、最初の希釈濃度は、面白い事に、ほとんどの国で、重量百分率濃度で8~12%前後である。これは硬化した膠は、製造原料や製造方法に関係なく約10倍位の水を含んでゲル化するという事であると思う。
また、この事は膠と言う接着剤が乾燥硬化する時に、体積が10分の1以下に痩せると言う事(縮化)でもあり、乾燥硬化しながら接着する二面をひっぱり、強固に接着する事が出来る理由でもある。

 ゲル化させた膠の加熱は、日本画では膠鍋と言う小さな土鍋を弱い直火にかけて使うが、一般には、湯煎で温度を押さえて行う。これは、70度C以上の加熱はゼラチンを分解してしまい、膠の接着力を落とすからである。
 また何度もの再加熱も膠の接着力を落す。 私の経験では、特に防湿性が落ちるように思われる。(完全な硬化後でも、すぐに吸湿、吸水して柔らかくゲル化する様になる)
私は表板や、裏板の接ぎの時に一台ごとに新しい膠を準備して使っているが、クレモナの製作学校では、残念な事に大きな膠鍋を回し使いして、少なくなったら足すと言う、うなぎ屋のタレみたいに使っている。いかに教諭陣に、指物師や、木工職人としての知識がなく、弦楽器製作者と言う事で、基本的な知識がなくても通ってしまうかである。
何度もの再加熱した膠の使用が、新作イタリア楽器の表板や、裏板の接ぎに問題が起こる原因の一つかも知れない。
 また、市販のサーモスタット附き弦楽器職人用湯煎膠鍋も家具職人の物をコピーしているせいか、コントラバスには良いが、ヴァイオリンやヴィオラの製作には内鍋が私には大きすぎるように思える。



サーモスタット附き湯煎膠鍋(容量250ml)




(三千本膠の呼び名について)
 15歳のときに日本画の師匠から、一貫目(3.75kg)で3000本あるから三千本膠と呼ぶと言う話を聞いていたが、1本12グラム以上ある三千本膠が3000本で、なぜ一貫目に為るのか不思議であった。他説には、牛皮一頭から3000本取れるからと言われるが、これも納得がいかない、なぜならば一般に膠を採るのは、主に端切れやシェービング屑からであり、また三千本膠が牛皮のみで作られていたと仮定して、牛原皮一頭から3000本取れるすると、一頭の丸皮で36kg以上も取れることになる。

小学館国語大辞典によると、三千本膠は、幅10ミリ、厚さ5ミリ、長さ25ミリほどであったと書いてある。より精製度の低い千本膠は、幅9ミリ、厚さ3ミリ、長さ240ミリほどであったと書いてある。だとすると、今の三千本膠は千本膠の長さの影響を受け、長さが10倍ほど伸びたのか?、、。

また、これは独断であるが、一貫目で3000本あると言うのは、重量ではなく、貨幣の一貫、即ち1000文(江戸中期で1000文約3万5千円程度とすると、今の価格で三千本膠30本で350円位)であったとも考えられる。






 次に、膠を原材料によって分けてみる。但し膠は、皮、骨、腱などを使う為に食肉産業の副次的産物であり、製品となった物の原材料をはっきりとトレースする事は、困難である。
日本の現在の鹿膠は、鹿の皮から取った物ではないし、フランス産のウサギの皮膠と謳っていても、家畜の皮膠が混入されている物がある。
消費者は生産者や販売者を信じるしかないのが現状である。



韓国の三千本膠に類似した商品
(但し、1本30グラム以上もあり日本の三千本膠よりかなり太い、食肉文化のせいか膠の歴史も長いように思われる、日本の三千本膠の原形か?)





日本の鹿膠
(約1.5gと粒が大きいので、気温にもよるが冷水で一昼夜以上の吸水膨潤をしたほうが良い)





吸水膨潤してゼリー状になった鹿膠
(8度Cで36時間冷水に浸す。縦、横、高さが約2倍強の大きさになっている。体積は約10倍)





吸水膨潤して柔らかなゼリー状になった、ヨーロッパでは一般的なゼラチンの駄菓子(GUMMI)
僅かに香料、砂糖、色素と軟化材が入るが、成分は殆んど膠と変わらない
これでヴァイオリンを作っても面白い
(18度Cで72時間冷水に浸す。これも約2倍強の大きさになっている。体積は約10倍)


-補- 
 体積から一辺を求めるような、立法根を開く計算は、拙作簡易関数計算機ソフト黄金比CALを使うと体積の倍数10を入力して立法根のボタンを押せばCubrt(10)= 2.15443469003188と一辺の値が簡単に求められ、印刷もできます。
(勿論WINDOWS付属の電卓でも求められますが、、)





ウサギ膠
(吸水膨潤を良くするために粉砕してあるが、半日以上冷水に浸したほうが良いと思う、但しウサギ膠は防腐剤等が添加されていないので、夏場は冷蔵庫に入れてゲル化する)




 膠は最初にまず原材料の獣と魚で分けられると思う。獣を原材料とする物として、骨膠、皮膠に分けられ、骨膠はかなり不透明で茶褐色であり一般の大工作業や指物に用いられる。 骨膠には、滴下する事で真珠大の粒にしたパール膠(イタリアでは、生産地にちなんでかチューリィヒ膠とも言う)があり、皮膠には、牛馬や豚の皮革から作るハイド膠(一般的皮膠)、ウサギの皮の端切れで作るウサギ膠、羊皮紙(パーチメント)の製造過程で出る切り落とし部分やシェービング屑で作る羊皮膠などがある。  油絵では、キャンバスの地塗りに非常に強力で柔軟性のあるウサギ膠を最良としている。  
一般に骨膠は、軟骨基質が含まれていて硬質であり、皮膠はある程度の柔軟性があるとされる。



パール膠(チューリィヒ膠)、クレモナでは弦楽器製作にも使用
回転体に当てて滴にして飛ばす事で粒状にしてあり、非常に廉価で1kg 1000円以下で買える



 魚膠は、魚の骨や皮やヒレで作る膠と、浮き袋で作る膠とに分けられる。
魚膠は、一般に透明度が獣を原材料とした物より高く、粘着性が強く、柔軟性があるが、バクテリア等に弱く耐久性は劣るとされる。
魚の骨や皮で作る魚膠は、ホッケ、たら、鮫などから作られ、透明度の高い物で、写真乳剤や、楽器の修理などに用いられる。浮き袋で作る膠は、ニベと言う深海の底に住む回遊魚の浮き袋から作るニベ膠、また鰻、鯉、鮒などの淀みに棲む淡水魚の浮き袋からもニベ膠と同等な物が作られる。(はんぺん、かまぼこに向く魚が魚膠にも向き、鰻、鯉、鮒などの沼で底から水面までよく浮き沈みする魚ほど浮き袋が発達していて良い膠となると思われる)

 日本の写真用フイルムの素晴らしさは、日本の高度なゼラチン生産技術が写真乳剤製造において大きく貢献していたのではないだろうか。(デジタルカメラの普及で、存続の危機にあるが、ハロゲン化銀の感光ゼラチン乳剤のフイルム写真は、デジタルカメラでは出せない一味があると思うのだが、、、!)
 浮き袋から作られる最上の膠として、キャビアで有名なチョウザメからの物がロシアのアイシングラスと言われて、何世紀もの間、高度な透明度と強固な接着力で医療などにも使われ貴重品となっている。





オオチョウザメ(ベルーガ)の浮き袋を干したアイシングラス



-注-
 アイシングラスとは、雲母の意味もあり、この膠が雲母ように薄くキラキラしている事からか? または雲母が似ているからか?  アイシングラスと言う名称は、見た目上の分類で、広義にはニベ膠や、鱈その他の精製度の高い浮き袋の魚膠もアイシングラスと言う事がある。

これは、ビール製造業界では、濁りを取る清澄剤として初期には高価なチョウザメの浮き袋から作られる真のアイシングラスを使っていたが、ウィリアム・マードック (William Murdoch)による鱈などの浮き袋による安価な膠の清澄剤が使われるようになってからも、総ての魚の浮き袋からの膠をアイシングラスと言ってきた事に由来すると思われる。

 尚、アイシングラスは、養殖のチョウザメでも個人使用以外では、ワシントン条約(CITES サイテス: Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora=絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)に、触れる恐れがあるので、商業的輸出入には注意が必要である。


 


また、韓国では、ニベ科の魚であるイシモチ(英=yellow corvina)は一般的であり、その乾物は、『グルビ』と言って非常に高級な贈答品となる。ニベ膠の製造も三千本膠と同様に、韓国の技法や影響があったと思われる。

面白いことに箱の上部にメジャーが付く化粧箱に入る体長31cmの特大最高級霊光グルビは、1束10匹で200万ウォン(20万円)する!! 体長が2cm減るごとに価格は半減する
 韓国『chamgulbi』のカタログより


膠の製造と消費は、原料となる食肉文化との関連が高かったのではないだろうか、この点では、日本には、漆や澱粉、海草を使った糊が発達していたし、マッチの製造が盛んになる明治時代以前の日本の膠の消費は、墨の製造が主であり、少なかったと思われる






 接着力について骨膠は非常に強靭であると言われるが、膠の強度はあいまいで、感覚的なものであると思う。膠でスプルースを接着した時の強度は、年輪に平行(板目方向)に貼った時と、垂直に貼った時(木口方向)の強度に約3対1位の違いが出るし、引っ張り強度とずらした強度と叩いた時の強度では意味が違う。
膠は叩いた時の強度は弱く、合成ゴムの接着剤は非常に柔軟な為にショックに強い事でも解かるように強度は非常に多要素であると思われる。
 また膠の強度は精製度に反比例すると言われるが、非常に透明でありながら強靭で、経年変化に対する耐久性がある物もある。石灰の混入のような化学的な処理でなく、セラミックや活性炭による濾過のような物理的な方法による精製はむしろ強度を上げると思われる。
 真偽のほどはからないが、製造直後の膠は接着力が弱く、乾燥した涼しい所で二、三年寝かせると接着力が高くなると言う事を聞いたことがある。(そうめんと同じで内在する油脂分が酸化して安定するからか?)

 また、溶いた膠は蛋白質のゲルで、シャーレに入れた細菌の培養基のような物であるから非常に微生物により腐敗しやすく、強度が落ちやすい。これを避ける為に、石炭酸などの殺菌剤、防腐剤等を僅かに入れる事がある。日本画で使う鹿膠は、製造段階で、ホルマリン等を入れて、耐湿性及び、防腐性を上げていると思われる。
(ホルマリンのホルムアルデヒドが、膠の一部を水に解け難いホルモゼラチンに変質させたのであり、完全な耐湿、耐水性になるわけではないし、またこの防腐効果も普遍的ではないと思う)
 防腐剤を入れても、溶いた膠は冷蔵庫に入れて保存したほうが良い。但し凍結は、コンニャクや豆腐と同じで、膠を駄目にするので注意が必要である。
膠も基本的には、カゼイン糊と同じくあまり沢山溶かないで、なるべくこまめに準備する事が大切である。但しあまりに少なく溶いた膠は、作業中に濃度が上がりやすいので勧められない。

 膠は、吸水膨潤などの準備や、湯煎等の手間がかかり、使いたい時に直に使えない。この不便さを補う為に酸で処理し防腐剤を入れて、常温でもコロイド粒子に流動性を持たせて液体状にした物が、日本画の液体鹿膠やタイトボンド社のハイドグルーとして売られている。
これらは、合成樹脂接着剤と同様に使えて便利だが、弦楽器製作には乾燥後の硬さに問題がありあまり勧められない。
 膠の直に使えないほどコチコチであると言う事が、何年もの保存が効くという素晴らしい利点でもある。




タイトボンド社の液体ハイドグルーと日本の液体鹿膠



 また、鹿膠は、丈夫な和紙の袋か,通気孔のあるナイロン袋に入れて売られている。これは乾燥した状態の膠も湿度にもよるが約15%前後の水分を含んでいるからである。密封したほうが保存性が良いと思って、密封した袋や容器に入れると、気温上昇で出た水分が、温度が下がる事で結露したり、蒸れてカビ等の原因になる。
(米も布や紙袋だと蒸れない、片栗粉はどこの国でも紙袋入りだし、イタリアのパスタのプラ袋には必ず小さな通気穴があいている、またBARILLAは頑なに、紙の箱包装に拘っている)

 乾燥した涼しく風通しの良い所に保存するのは、虫や埃が心配でどうしても嫌だと言う人は、ヴァイオリン作りの独り言の 13番 桐箪笥とシリカゲルでも書いた様に、密封した容器にシリカゲルを適量入れると蒸れ難い。

 膠の耐水性がないとか、非常に痩せるとか、硬くて直に使えないと言う欠点が、膠の最大の長所である。




   BON LAVORO! (こんな事を書いてないで、今日は裏板の接ぎをしなくては、、、)





 -追-

 冒頭の「コラーゲンを含む組織を85度C前後の湯で煮沸」と言う記述に、何故100度C以下で沸騰出来るのかと言う疑問を持った人もいると思うが、圧力鍋とは反対に耐圧釜で一気圧以下に減圧する事で沸点を下げて、効率良く良質の膠を抽出すると言う事である。
 これはあくまでも私の推測であるが、工業生産される以前は、膠は薪や水の豊富な気圧の低い高山において、作られていたのではないでろうか?。
 (小生はマッターホルンのふもとで、一般のカップヌードルを作ろうとしてお湯を沸かしたが、かなり低い温度で沸騰してしまい、おいしく食べられなかった苦い経験を持つ!  -J*Lのうどん DE SKYは、気圧の低い機内で作る為に、低めのお湯でも良く戻るように出来ている-  J*Lから宣伝料はもらっていません!)





欧州の17世紀頃の水場に取り付けた膠用の皮を洗う為の籠
保存、脱毛の為に石灰をまぶされた皮屑は、石灰分や毛、ゴミ、脂肪を取る為にも川の流水で良く洗う必要があった





膠液を型(日本の製造業ではフネ:船と言われる)に入れて作ったゲルを網の上で天日乾燥(現代は乾燥室で強制的に人工乾燥)する欧州の17世紀頃における膠作りの図
膠の凝固の為に、外気温は15℃以下の季節、または高山でないといけない





カゼイン糊については、ヴァイオリン作りの独り言の  27番 チーズと膠 をお読みください。 

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰は、まだまだ続きます。





 間違いの点や御意見がございましたならば、下記まで

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私のホームページの愛読者の方から、たとえ比較や批判の為の短い引用文や、小さな画像でも版権が存在するのであるから、出典を明記すべきではないか、と言う助言を頂きました。

上記の「横板に表板や裏板を貼るときに使うクランプを使用してのコーナーブロック材への接着」の画像は、菊田ヴァイオリン工房様のホームページより引用させて頂きました。

有難うございました。



本(ヴァイオリンのF孔)の紹介

著者の弦楽器関係拙作フリーウェアプログラム+アルファ

ヴァイオリン作りの独り言

ヴァイオリンを選ぶ時

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅰ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅱ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅳ



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