DECAGON
ストラディヴァリの内枠に見る絡繰 Ⅱ
37世紀の未来、超クラシックとされるヴァイオリンの好きな一人の発明家がおります。
彼はついにタイムマシンを作りだします。そして彼は、かねてより会いたかった人物の一人であるストラディヴァリに会いたいと思い、時代を1715年3月21日、場所をクレモナにタイムマシンを合わせます。暗い時間の旅の末、年老いたストラディヴァリを探し当てました。
彼は色々と訊きたい事があったのですが、まずヴァイオリンの横板の高さを何mmで作っているのか質問しました。なぜなら、かねてより横板は2000年もの間に何度も開け閉めされて作られた時よりかなり減っているのではないかと言う疑問があったからです。
するとストラディヴァリは、「そんな事知らん」と答えました。
彼は、この時代はメートル尺を使っていない事に気がつき、この時代にクレモナで使われていた単位「片腕の幅」(腕尺=CUBIT
キュービットとも言い、中指の先からひじまでの長さで国や地方で違いがあり、クレモナでは1腕尺=484mmであった)で訊きました。
ストラディヴァリ曰く、「横板の高さ何ていう物は、全長から求めるのだから、型が少しでも違えばみんな僅かに違う」、「だから各内枠ごとに、コンパスで印してあるんだ、数値などいらないし、覚える必要もない」、
そして冗談めいて曰く、「コンパスや比例コンパスを知らないのか、コンパスなら髪の毛一本分の違いも簡単に採れる。 2000年以上前のジェスが生まれる前から使われているんだぞ!」
「お前は、いつの時代の人間だ?!」
中世のコンパスの図
ストラディヴァリの使用したコンパス
レオナルド-ダビンチの比例コンパスの図
現存する多くのストラディヴァリが使用したとされるのヴァイオリンの内枠を見ると、各々、中心部に小さな二つの円弧が見られます。
各内枠が中心線上に横板の高さを示す二つの円弧を持つ
これは、コンパスをこの長さに合わせて、横板の高さを取る為に使用しました。
小さい円弧は横板の高さの上部(ネック側)、大きい円弧は横板の高さの下部(エンドピン側)を表しています。
"ストラディヴァリが物差しや測度を知らなかったわけでない。"
現代のクレモナでは、全長を355mm~357mmと大体規格化された長さでとり、横板の高さは、全長に関係なく固定値で取ります。即ち全長が355mmや357mmでも、横板は上下で30mmと31.5mmに当たり前のように作ります。
もしストラディヴァリがこの事を知ったら全長に対しての調和の中であるのだと言って嘆くでしょう。
ストラディヴァリの型は、355mmと356mmの楽器では、内枠に横板の高さを印す事により、物差しなしで1/20mmの違いを出せるのです。
横板の高さ
精度と言う物は、現代人がメートルと言う尺度のもとで、精密機器で測り数値に置き換えたからと言って上がるの物ではないのです。
例えば、横板の下部の高さを31.6mmと表記する事で、17世紀から見たら1/10mmの高精度であると思ってしまいますが、ストラディヴァリは全長355mmの型と、357mmの型のヴァイオリンの横板の高さを、コンパスで内枠に直接印す事で1/20mm以上の精度で高さの違い表す事が出来ているのです。
(勿論、横板の高さが1/20mm違ったからと言って、実際面で大差ないと言ってしまえばそれまでですが、、、)
規格、固定化して数値で表すと言う事が全長との調和を見失なさせ、現代の数量的計測がコンパスで取る事よりも高精度であると言う思い過ごしが、17世紀の楽器に追い着けない一つの理由でもある様な気がするのですが、、。
-追-
横板の高さ31.5mmがどこから求められているのか、なぜストラディヴァリは横板に上下で2mm弱の差異を附けたのか、また、なぜ差異は"ヴァイオリン作りの独り言"60番 300丁で秘密は見えてくるで書いた様に表板側のネックが附けられる付近を落としているかは、次の題に、
ヴァイオリンの上、中、下の横幅、F孔の上下の円孔やキリカキの位置、指板の幅など、総ての長さは全長を基にした黄金比により素晴らしい調和の中で求められている。即ちヴァイオリンの総ての線は、全長×黄金比で構成されている。
私が思うに、既存の形の流用ではなく、この事を理解しデザインに生かした製作者は、アンドレア アマティやアンドレア グァルネリそしてアントニオ ストラディヴァリを含めたクレモナ黄金期の数人であり、ストラディヴァリは、この調和の創造者ではないが頂点に立つ一人である。
現代の製作者を含めて、彼ら以降の製作者は塗り絵職人的に輪郭に、より正確に色を塗る事にとらわれて、その線の持つ意味を見失ってしまっている。そして、出来た塗り絵を見て芸術的作品であると自画自賛しているように思えてならない。
ストラディヴァリの真の知名度の高さは、単に優秀な職人であった事や時代背景から来るのではなく、非対称と歪の中で、内枠が示すように黄金比による調和の線を、他の製作者にはない、頑なほどの執念を持って一生求め続けた事によると思う。
-注-
非対称と歪の中の意味は、拙著"ヴァイオリンのf孔"の導入部お読み下さい。
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