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ヴァイオリンの中の正十角形


副題 「ヴァイオリンの中の黄金比は正しく伝わらない!」


 

 2009年に、拙著「ヴァイオリンのF孔」の購入者でもあり、ホームページの愛読者から「坂井さんの考え方が、日の目を見てきたようですね!」と言うEメールを頂いた。

NHKの「美の壷」と言う番組で、バイオリンの美しさを取り上げた時に、ヴァイオリン製作者の高倉匠さんが「最近、f字孔には、ある秘密が隠されていたことがわかってきました。楽器の全長に対して、全長を黄金比で分割した時に、必ずその黄金比の来るところにこのf字孔の下の目の中心が来ます」と述べていたと言うのである。

 https://www.nhk.or.jp/tsubo/program/file131.htm 
File 131「バイオリン」|NHK鑑賞マニュアル 美の壺

注 File 131に、直接にリンクしない時は、 過去の放送内容のページからFile 131「バイオリン」を選択してください。

私は、クレモナで機会あるごとに、「F孔の下の円孔は、全長に対して黄金比の所にあり、この値は中央部最小幅の2倍、上の円孔は内接正五角形の最大幅の半分であり、上部最大幅と同値である」と主張してきた。



F孔の上下円孔の位置





ただ、「F孔の下の円孔は、全長に対して黄金比の所にある」と言う表現は、便宜的に解り易く説明する為でもあった。

私の真意は、中央部最小幅の2倍、即ち半径に対して黄金比である内接正十角形の一辺の2倍と言う事である。勿論、全長(1)に対して黄金比(0.618)の所と、全長の半分(0.5)に対して黄金比(0.309)の2倍は同値であるが、少し意味が違う。

最近、WEB等で「F孔の下の円孔は、全長に対して黄金比の所にある」と言う記述を良く見かける。
「F孔の下の円孔は、全長に対して黄金比の所にある」と言う事が独歩してしまっている様にも思える。

私のヴィデオクリップを見ていただいた方は、その意味の違いを理解して頂けると思う。

NHKの「美の壷」のスタッフの方も、高倉匠さんから「最近発見された事ですが、F孔の下の円孔は、全長に対して黄金比の所に来るのです」と言う話を聞いた時に、「では、間隔は?、上の円孔は?」とか、もう少し突っ込んで、美を求めても良かったのではないかと思う。

 内在するコーナーブロックの大きさまで、総ての寸法が全長の半分(0.5)に対しての黄金比(0.309)だけで求められる黄金比の宝庫である神秘的なヴァイオリンを、「F孔の下の円孔は、全長に対して黄金比の所にある」と言う事だけで終わりにするのは残念でならない。





    では、ヴァイオリンの半径(0.5)に対しての黄金比(0.309)である内接正十角形の一辺、及びこの2倍を探してみると、、

1 中央部最小幅

2 F孔の下部円孔の間隔

3 上部の最小幅(上部コーナーカーブの中心)

4 F孔の下部円孔(2倍)



1番から4番





5 上部コーナーカーブの下の中心

6 テールピースの長さ (本体ではなく付属品ではあるが)



5番、6番





7 頭部の長さ (本体ではないが)



7番





8 上部最大幅と下部最大幅との距離(2倍  但し、計算値は約0.614、ヴァイオリンで約1.4mm短くなる)
      計算式 (1-0.309)÷2÷2+0.309+(1-0.309)÷2×(1-0.309×2)

注 
何故、0.614になってしまうかと言うと内接正十角形の一辺は、0.309ではなく、0.30901699...と言う無限少数であり、ヴィデオ 「f孔の下部ひとみ径に隠された黄金比」の注でも説明したように、
無限小数による計算では、真の値は出ないと言うことです。

 ヴァイオリンのデザインは、定規(目盛を必要としない直線を引くための定木)と、コンパスまたは黄金比例コンパスのみで幾何学的にされています。
この作図法の中では、数値は必要ではありません。
現代の製作者は、これらの作図法を伝授されなかった為に、どうしても数値が先に来ますが、けして真の値ではないと言う事です。




8番






本体が持つ上記の黄金比を、まとめて図示すると、






黄金比は4番のF孔の下部円孔だけではない!









    ヴァイオリンの内接正十角形の一辺に黄金比を乗除して求められる長さは、、

1  F孔の上部円孔の間隔【 全長×0,309×(1-2×0.309) 】【 全長×0,309×(1-黄金比0.618) 】

2  頭部の幅 【同上】



1番、2番







1番、2番の値の証明

    参考  拙作ヴィデオクリップ   ヴァイオリンの頭部に隠された黄金比





上部円孔の横位置は中央部最小幅の0.309、即ち中央部最小幅の半分を黄金分割(1.618:1)する









3  指板の下部の幅【同上】

4  駒の足の幅【同上】 (本体ではなく付属品ではあるが)

5  尾止め板の幅【同上】 (本体ではなく付属品ではあるが)



3番、4番、5番







6  下部コーナーの間隔【全長×0,309×黄金比1.618=0.5】
 (内接正五角形の一辺と対角線は黄金比の関係にある)



下部コーナーの間隔は全長の半分!
だが、全長×0.5ではない  全長×0,309×1.618である







7  上部コーナーブロックの長さ(カーブの切り変わり点)【F孔の上部円孔の間隔÷黄金比1.618】



上部コーナーブロック







上部コーナーブロックの長さ
F孔の上部円孔の間隔と黄金比矩形を成す!







カーブの切り変わり点!





    参考  拙作ヴィデオクリップ   ストラディヴァリの内枠に見る秘密



8  指板の上部の幅【 全長×0,309×(1-2×0.309)×正五角形の1辺0,587 】



指板の上部の幅







指板の上部の幅と下部の幅との関係







指板の厚さが求められる拙作ソフト 『指板の厚さ』より



    参考  拙作WINDOWS用ソフト   『 指板の厚さ』を見る





9 F孔の下部円孔の径 【0.5-上部最大幅(上の円孔の縦位置)】



F孔の下部円孔の径は、0.5-上部最大幅(上の円孔の縦位置)



    参考  拙作ヴィデオクリップ   ヴァイオリンと正十角形





これらは総て内接正十角形の一辺0.309だけで表せる。
例えば7番の上部コーナーブロックの長さは、【 全長×0,309×(1-2×0.309)×2×0,309 】と表せる。

尚、黄金比の残り値である(1-2×0.309)は0.382であり、この値も随所で使われている。









 最後に、上の円孔の位置(縦)を考えてみたい。

 まず、内接正五角形で考えると、一辺である0.587に黄金比1.618を掛けた値(即ち内接正五角形の最大幅)の半分である上部最大幅と同値である。
0.587×1.618÷2=0.475



内接正五角形から求めた上の円孔の位置









では、内接正十角形で考えると、



内接正十角形から求めた上の円孔の位置




ピタゴラスの定理より
もちろん半径0.5と0.309の半分からでも求められる



上の式をご理解頂けた方は、8 番の指板の上部の幅【 全長×0,309×(1-2×0.309)×正五角形の1辺0,587 】も
下記の様に0.309のみで表せる事もご理解いただけると思う



ピタゴラスの定理により総て0.309のみで表せる



上の円孔も素晴らしい比率の中にある。





 私は1990年頃から幸か不幸か、ストラディヴァリ(Antonio STRADIVARI)やバルトロメオ・ジュゼッペ・グァルネリ(通称 Guarneri del Jesu)の死後300年近く、後継の製作者が模作に囚われて明かす事のできなかったクレモナの黄金期の製作理念や製作方法が、現代のクレモナのそれらと全く異なると言うよりも正反対である事に気づきだしてしまった。

現代のクレモナヴァイオリン製作における2大流派の一つであるビソロッティ派(祖師 故Francesco BISSOLOTTI)も、内枠で作ることや、裏板、表板を胴板に貼って箱にしてから、縁に付く黒い二本線の象嵌(パフリングーpurfling)を入れる等などしているが、根本的には左右対称を至上とする模作でしかない。
モラッシー派(祖師 故Gio Batta MORASSI)は、外枠でつくり、全くクレモナの黄金期の製作理念や製作方法から遠く離れている。

このように極言すると、クレモナの2大マエストロを、伝統を受け継ぐ現代のストラディヴァリなどと販売のために賞賛している楽器商や、2大マエストロやその愛弟子に習ったと誇称している製作者から怒りを買うだろう。

私は、現代の2大マエストロや2大流派を否定している訳ではない。これらは現代の製作の流派として60年の歴史があり、商業的価値もある。
但し、出来上がった楽器の形は似ているが、クレモナの黄金期の製作理念や製作方法の観点からは、全く異なる流れとなっている。

そして、これらの流派が左右対称を至上とする模作でも仕方がない。
何故ならば、経営戦略にたけたストラディヴァリの『秘技は伝えたくない』と言う気持ちからか、また息子たちの独立や、他の製作者の台頭を望まなかった為か、クレモナの黄金期の製作理念や製作方法は秘し隠され、300年以上忘れ去られて来たからである。

もしも、ストラディヴァリが、黄金期の製作理念や製作方法を意図を持って秘し隠したのだとしたら、私が暴く事は良い事なのか数年悩んだ。

そして、ストラディヴァリの逆鱗に触れるかもしれないが、アマティやストラディヴァリの生誕の地で40年近く生きた東洋人の一製作者に、何かの力が、ある意味があって、気づかさせたのであると思い、ヴァイオリンの素晴らしさを著した。



  ヴァイオリンの中の調和のある非対称に関しては

ストラディヴァリ、グァルネリの死後 ヴァイオリンは作られていない
副題『ヴァイオリンと能面の中の非対称』

ストラディヴァリは、ヴァイオリンを故意に歪ませた
副題「ヴァイオリンの原点は、ジパングのゆがんだ真珠?」




また、「現代のクレモナのそれらと全く異なると言うよりも正反対である事」に関しては、

ヴァイオリンを選ぶ時
AMATI や STRADに肩を並べることが出来る楽器の必要条件  


  を参照ください。








これらは、ヴァイオリンの中の正十角形の一部であり、
黄金分割はF孔、渦巻き、膨らみ等の中に、たくさん在るが、残りは次回に、、。   






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拙著(ヴァイオリンのF孔)の紹介

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ヴァイオリン作りの独り言

ヴァイオリンを選ぶ時

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅰ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅱ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅲ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅳ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅴ




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