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ストラディヴァリは、ヴァイオリンを故意に歪ませた


副題「ヴァイオリンの原点は、ジパングのゆがんだ真珠?」






 過去の名匠のヴァイオリンには
 [ストラディヴァリ、グァルネリの死後、ヴァイオリンは作られていない
  副題  『ヴァイオリンと能面の中の非対称』]
でも書いたように、人間の顔と同じく暖かさのある歪みがある。

この事に関して、『アントニオ・ストラディヴァリ(1644?~1737)は、ヴァイオリンの形の中に、意識的に非対称を入れた』と主張すると、全ての製作者や楽器商から非難の声が挙がると思う。

何故ならば、彼らには楽器の形やf孔の位置は、絶対的に左右対称でなくてはならないと言う基本的な固着観念があるからである。
ましてや、過去の名匠がヴァイオリンの形を、意識的に非対称にしたなどとは到底考えられない。

しかし、実際に過去の名匠のヴァイオリンには、全て左右でかなりの歪みがある。これは、プリミティブであり、製作工具等も未発達で、製作精度が上がっていなかった為であると多くの製作者は言う。


非対称なストラディヴァリのヴァイオリン《CREMONESE 1715》
クレモナ市庁舎



だがストラディヴァリの木工技術は、象嵌やf孔の仕上げから見てもかなり高い。
しかも、現代の製作者がコンクールに出す為に、舐める様に時間を掛けて作っていたのではなく、非常に手早く大胆に作っていたと思われる。
これ程の木工技術があれば、左右対称に作る事など容易いであったはずなのに、、、。

これが、ここでのテーマである。



 ヴァイオリン属はバロック時代に、ヴィオール属を基に劇的変化を持って現れる。

バロック時代とは、ルネサンス時代の古典の再認識による緻密さや均斉から脱却した、16世紀から18世紀の時代精神で、南、西ヨーロッパを中心に起きた非対称や動きを重んじ、またキリスト教の世界観を否定し、無限である宇宙観を持った芸術上の様式が栄えた期間である。

そして、この芸術上の様式はイタリアが頂点となる。何故ならば、この様式は、イタリア人のブルーノ・ジョルダーノ(Giordano Bruno,1548~1600)の汎神論的宇宙観や、ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei,1564~1642)の支持した地動説が基礎となっているからである。
ヴァイオリンも、この非対称や動きを重んじた芸術上の様式の中で、産声をあげる。

 尚、バロックとは、Federigo BAROCCIの名前から来るとか、諸説があるが、一般には、ポルトガル語源のBARROCO(ゆがんだ真珠やゆがんだ泥塊)がフランスに入ってBAROQUとなったと言われている。



歪んだバロック真珠



では、なぜバロックがポルトガル語由来なのだろうかと考えて見たくなる。

これは、完全な私の推測に過ぎないが、ポルトガルは16世紀から18世紀にポルトガル領マカオを拠点に大航海時代の先駆けとなり、日本も含め、東南アジアでの交易により膨大な富を得た。  [東光博英著『マカオの歴史―南蛮の光と影』、大修館書店、1998]



一般に言うチャルメラもポルトガル語由来である
1965年頃購入したもので正式な名称は不明だが、
左は西アジア由来のスールナイ、右は中国のサトツであると思う 



彼らは、ヴェニスに牛耳られていた陸路の東方貿易から、喜望峰を回る海路を開発する事で香辛料や生糸を西洋に運び巨額の富を築いた。
即ち、ヨーロッパの物産や、アフリカの象牙、インドの綿を中国の生糸、絹織物や陶器、樟脳に換え、日本でこれらを銀や漆器に換え、この銀をマカオで金に換えた。

18世紀ごろの日本の金と銀の交換率は、時期や地域にもよるが銀が豊富だった事もあり、1:13ぐらい、マカオのそれは1:10くらいであったとされる。これだけでも大きな利益があった。
(但し、幕末には南鐐二朱銀の鋳造により、上記とは逆に重量交換比率が1:5位となり、外国からの銀の流入により、外国への金の流出となる。  外国人が銀5をもって1の金に換え、1:15位であった自国で銀に換えると単純計算で銀10の差益が出ることになる)

そして、日本での交易として真珠もあったと思われる。
何故ならば、日本や韓国には、平安時代の枕草子にも出てくるように、働く女性の先駆けである海女がいて、サザエ、阿古屋貝、鮑や海藻を取っていた。運がよければ阿古屋貝の中に天然真珠を見つける事ができた。

(少し脱線するが海女はなぜ主に女性なのか?。当たり前か海女だからか!)


海女はなぜ主に女性かと言う疑問に独断ではあるが、

1 一般に、女性は皮下脂肪があり海水による低温から男より優位だと言われているが、皮下脂肪が多く比重が低いために浮上しやすいと言うこともあると思う。

そして、明治時代以降、磯着と言う白い木綿の布をまとうが、元来寒い時期でも裸であった。これは、浮上時に布や男よりも体毛による抵抗が少なく、早く海面まで戻れた為であったと思われる。
また、昭和時代に抱っこちゃんの愛称でウエットスーツが普及し、かなり低温や外傷から守られるようになったが、蒸れの弊害もある。

2 そしてこれも独断であるが、女性の方が、海底で獲物である保護色の貝類を見つける能力が高いのではないかと思われる。即ち男は狩に行って動く獲物を見つける能力である動体認識力が高く、女は、森の中の木の実や果実を見つける能力である色相認識力が高いのではないかと思う。
だからパイロットやスナイパーは男のほうが向くし(女性差別ではありません)、スタイリストや服飾デザイナーは女の方が向くと思っている。赤いフェラーリの塗装の最終チェックは、女性がする。

3 同じ作業をする場合に、女の筋肉のほうが男のそれより酸素の消費量が少ないと思われる。だから長く苦しまないで潜れる。

4 男は女よりも闘争心が強いために、他人より沢山の貝類を獲ろうとして深追いし浮上の時期を逃しておぼれやすい。

5 過去において男は髷を結っていたので潜水には適さなかった。一般の女は江戸時代まで垂髪であったとされる。

6 沖の漁は、男の仕事であり、磯の漁は女の仕事であった。

7 裸での素潜りは、体が冷える、この為に磯で体を温め、憩おう海女小屋があるが、もし男ならば、対抗意識とプライドで和気藹々と家庭のことや雑事の事を話して和む事が出来なかったと思う。

8 貝類は、熨斗あわびに見るように、神社に納める供物であったために巫女と同じく、採取も女性の方が尊ばれたと思う。



(話を戻そう)

 真珠は、今では1つの装飾品だが、1950年に御木本幸吉が半円真珠の養殖に成功するまで非常に貴重な宝物であった。
小さく軽く研磨することなく非加工でも美しい真珠は、最高の隠し財産となる。ただ、真珠の価値は、同じ照り(反射の美しさ)や巻き(真珠層の厚さ)でも真円とゆがんだ物では雲泥の差がある。
いや雲泥の差があると言うよりも、真円の核を入れて作る養殖真珠ができるまでは、天然の真円真珠は非常に希少価値があったと言うべきかもしれない。

そして、ポルトガル人はこの評価の低い歪んだ真珠や、芥子粒のように小さな真珠の中にルネッサンス期に古典から再台頭した歪による重心の動き(CONTRAPPOSTO=コントラポスト、対置、意識的に強調された不均衡 伊)や、同じ形がないという唯一無比(UNICO=ウニコ、唯一さ、たった一つの物 伊、 ユニーク 仏)に目を付け、逆にバロックを謳い文句にしたのではないだろうか?。




ヴィーナスの誕生 サンドロ・ボッティチェリ(Sandro Botticelli,?~1510)
フィレンツェ  ウフィツィ美術館

ルネッサンス期の重心の動き、コントラポスト
片足に重心を掛ける事で、骨盤のライン、肩のライン、両眼のラインが右―左―右と言う傾きを持ち、顔と背筋もヴァイオリンと同じく綺麗なS字曲線を作る

よく言われる、不自然な首の長さや立ち方は、コントラポストを意識し過ぎた事によると私は考える 





 また、非常に興味深いことに、南蛮人(ポルトガル人やスペイン人でありオランダ人やイギリス人ではない)と交易を始めたのと同時代に茶人、千利休(1521~1591)がいた。
彼は、信長や秀吉に仕え、瓦職人の長次郎に依頼して、薄く均整のとれた青磁の茶器が主流の中、手捏(てづくね)のゆがんで、武骨な楽焼を創作する。



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利休色(利休鼠?)の衣を着た利休像と白木のヴァイオリン(坂井克則作)





長次郎作 黒樂茶碗 銘 釈迦
滋賀・MIHO MUSEUM所蔵



もしかしたら、ゆがんだ非対称の動きと、唯一無比と言うヴァイオリンの中に生きる、バロック芸術の発信地はジパング(Zipangu)、即ちヤーパン(Japao)かもしれない。

そう考えるとストラディヴァリの左右の歪みは、
ジパングのバロックを元に、美しさを求めて故意に入れたのだ。



 

 

 

そしてこのバロック様式を鑑みる事で、

何故、クレモナの名匠のヴァイオリン属には、頭部に動物の顔等ではなく渦巻きが付くか?

何故、クレモナの名匠のヴァイオリン属には、前身のヴィオール属が無着色なのに鮮やかな色が付くか?

何故、クレモナの名匠のヴァイオリン属には、油ニスではなく、アルコールニスが使われたか?

と言う事の結論が導き出されると思う。


尚、アルコール関しての私見は、 [キフィ]をお読みください



また、
[ストラディヴァリの内枠に見る絡繰 Ⅰ]
の中で述べたヴァイオリンの曲線の急―緩―急は、アントニオ・ヴィヴァルデイ(Antonio Vivaldi,1678?~1741)の作曲の特徴でもある急―緩―急と同じく、動感を重んじたバロック様式なのである。

これらの詳細は次回に、、、。








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ヴァイオリン作りの独り言

ヴァイオリンを選ぶ時

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅰ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅱ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅲ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅳ

ストラディヴァリの内枠に見る絡繰Ⅴ




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